公認心理師試験の解答と解説 公認心理師 臨床心理士 精神科作業療法士など 精神科で働く人に役立つ情報を発信します

公認心理師と作業療法士の2足のわらじで働いています。私が体験した治療が上手く行った事例をプライバシーが守れる範囲で簡単に紹介していくことや、治療に関するトピックス、治療者が使いやすいツールや検査法、評価法など紹介していきたいと考えています。

認知症に対するリハビリテーションの必要性 ~認知症理解とリハビリテーションの効果~

1.認知症総論

 

アルツハイマー認知症で見られる記憶障害は、脳内のコリン作動性神経細胞脱落に伴うアセチルコリンの減少によって生じると説明されている。

 

 

アルツハイマー認知症アセチルコリンの分解酵素が働いており、伝達がうまくいかない。

 

 

 

ドネペジル等(AChE阻害薬)はAchの分解を抑制してシナプスの隙間のACh濃度を上昇させる作用があり、中核症状の改善が期待されている。

 

 

また、AChだけではなく、ニコチン性Ach受容体を刺激し、ノルエピネフリンセロトニングルタミン酸、γ‐アミノ酸(GABA)などの神経伝達物質の放出も促進すするレミニールなども出てきている。

 

 

しかし、原因は不明なので、いづれも対処療法薬である。

 

 

 

 

 

 

2.認知症の診断

 

認知症診断ガイドライン2012の重症度分類FAST参照。

医師はそれを参考に薬を処方している。投薬アルゴリズムも参考にしている。

 

 

しかし

 

 

認知症治療薬は一時的に改善の方向へ変化することがあっても、数年後には薬物療法を開始した時期に戻り、さらに病期は進行していく。(日精教誌2013.4)

 

 

なので、OTの認知症リハの役割、治療目的は

BPSDの減少、中核症状の進行の抑制となる

 

 

環境調整や対応、拘束方法、移動方法、習慣活動などで、看護師や医師にどうすれば良いか聞かれる、頼られるOTになるには、認知症のどのような中核症状から、どのような原因でBPSDに至っているかを説明できなければいけない。

 

 

そのためには、中核症状をしっかりと理解する必要がある。

 

 

 

 

3.アルツハイマー病の病期

 

初期(軽度 FAST steag4、HDS-R18~25程度)

記憶障害、見当識障害、遂行機能障害などが原因で、生活に支障をきたしている時期。

 

エピソード記憶のうち、近時記憶が阻害され、出来事そのものを忘れるようになっている。

 

妄想は半数以上に見られ、物盗られ妄想が半数を占めている。

 

うつや無気力になりやすい

 

※この時期は脳活性化リハで廃用を防ぎ、進行を遅らせることも期待できる。

 

 

徐々に前頭葉機能が低下しているため、「かなひろい」、「FAB」「TMT」なども行い、活動や作業のレベルを設定し、看護や医師に情報提供を行う。

 

※特に看護の患者理解を深めるためには重要。

 

 

 

 

 

 

 

中期(中等度 FASTstage5、HDS-R11~17程度)

 

即自記憶障害。昔のエピソード記憶、手続き記憶は保たれている

 

多動、徘徊、暴力行為が盛んな時期。

 

鏡現象。鏡に映った自分を正しく認識できない。(他人は認識できる)

 

相貌失認や著しい視覚障害を欠く。

 

感覚失語の様相の呈する。

 

ADL障害も出現。行為は可能だが、適切に服を選べない(同じ服)、トイレの仕方はわかるが場所がわからない。

 

 

 

 

 

 

 

末期(重度 FASTstage6~7、HDS-R0~10点)

 

失行、失認が顕著

 

片足素足、バスタオルを上着だと思う、歯磨きを食べる、便器の横で排便、便器の水で顔を洗うなど

 

ADLは全介助レベル

 

筋固縮、ミオクローヌス、歩行障害。

 

活動性低下していく。

 

その後、随意運動が徐々に低下していき、四肢拘縮、嚥下障害、全失語へ

 

 

 

 

 

 

 

4.認知症の記憶障害

 

アルツハイマー認知症では、エピソード記憶は近時から消失。意味記憶は徐々に消失、手続き記憶は失われにくい。感情は最後まで残る。

 

 

アルツハイマー認知症は記銘→保持→想起の記銘が障害されるため。保持→想起だけを使用する、昔話が可能。

 

 

海馬と別な記憶回路である扁桃体を介せば記憶に残ることもある。

 

 

扁桃体は恐怖条件付けや精神疾患とも関連する部分で、ドーパミンノルアドレナリン、アドレナリンの放出信号を出す部分で、感情を主に司っている。

 

 

なので、記憶に残らないが、一度自分に怒鳴った相手を見ると不穏になるなどの行動は扁桃体の作用と考えられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

5.記憶障害のケアの方法

 

基本は5W1H(いつ、どこで、何を、なぜ、どんなふうに)

 

 

何にどのように不安を感じているかを知ることが大事。

 

 

もしくは、記憶障害で状況理解できず困惑して、不適応反応を起こすので、1人にさせない、黙々とさせない、適度に会話が続く他患者に近くに座ってもらい、話題を振って、会話が続いたらその場を去るなど。

 

 

 

 

 

 

6.物盗られ妄想について

 

「自分が忘れる」ということを受け入れられず、「盗られら」責任転換することで自分を救う防衛機制(合理化)からくると言われている。

 

 

または、背景に「不安とさみしさ」があり、「頼りたいけど頼るのは嫌」という両価感情で、病前の性格が積極的、仕事熱心、負けず嫌い、人の面倒見が良い人に多いとされている。

 

 

そのため、「役割、頼られる、褒められる」でだいたい物盗られ妄想は一時的に消失し、続けることで減少していく傾向にある。

 

 

ちなみに徘徊も役割などで、居場所と感じてくれて治まったり、減少したりする。

 

 

また、認知症では、病識はないが、漠然とした喪失感や不安感など病感はある。従って笑顔で安心を与えるポジティブな声掛けが不可欠。

 

 

「痛くないですか?」より「大丈夫ですか?」と聞く方が良い。「痛くない?」というネガティブワードによって、「痛み」や「不安」のイメージが形成されるからである。

 

 

 

 

7.アルツハイマー認知症以外の認知症

 

 

 

①脳血管性認知症

 

ADに比べ、記憶障害少ない、高次脳機能、意欲低下、性格変化。

 

 

記憶障害少なく、症状幅広いので、細かく色々評価が必要。

 

 

出やすい症状。自発性低下、遂行機能障害、注意障害、感情、欲求の抑制障害、変動の大きさ。

 

 

ラクナ梗塞ではパーキン症状出やすいので、レビー小体型と間違う医師が多いので注意

 

 

 

 

 

レビー小体型認知症

 

パーキンソン病の原因のレビー小体が中脳黒質だけではなく、大脳皮質、皮質下諸核にも出現した状態。

 

 

初期は、自律神経系障害中心で、便秘の高率に合併。次に、注意障害、視空間認知障害著名。20~25点代で、MMSEの図形の模写で失点していたらかなり重要所見。それに加え、臭覚障害も見られたらほぼ確実。

 

 

パーキンやレビーは神経変性の病期なので、ドパミン作動が早期に障害されるため、臭覚障害も必発する。

 

 

その後は、幻視。幻視は後頭葉アセチルコリン放出量の減少と言われている。

 

 

パーキンソン症状は、振戦は稀だが、固縮と、小刻み、すくみ足など出やすい。あと、体幹の前屈、側屈傾向もみられる。※アリセプトなど服薬開始直後が特に注意!

 

 

自律神経系障害があるので、起立性低血圧には注意!

 

 

転倒が多いので、すぐに拘束対象になるため、早めの歩行器定着か、筋力維持が必要。

 

 

ドネペジル等の認知症治療薬での回復率はアルツハイマー認知症より大きいため、薬物療法開始後すぐの行動様式、習慣(歩行器など)の習得が機能維持のカギ。

 

 

 

 

 

 

 

 

③前頭側頭型認知症

 

主な症状は、人格変容、意味性失語、進行性非流暢性失語、万引き(店の中でお菓子を食べるのを我慢できない等)、暴行を期に入院することが多い。

 

 

ほとんど見ない。

すぐ全失語になる。

すぐ寝たきりになる。

SSRIが「周遊行動」を含むBPSDに効果あり。

 

 

 

 

 

 

 

 

8.認知症の脳活性化リハについて

 

 

適度な快刺激などのリハビリで

ノルアドレナリン興奮

軸索が投射するマイネルト核のアセチルコリン神経系の興奮

アセチルコリンは大脳皮質に広く投射して皮質の神経細胞を活性化

覚醒レベルが上がり、注意行動が引き出される

マイネルト核に隣接する中隔核・対核帯核(アセチルコリン神経系)も同時にノルアドレナリンの神経の投射を受ける

海馬にアセチルコリンを放出して海馬を活性化

学習・記憶能力を高める。

 

 

そして、脳の可塑性を利用している。

 

認知症でもたまに新しくなにか覚える現象は、快、コミュニケーション、役割、褒める、失敗ない活動などの刺激が、神経細胞の新生に役立ち、反復した、印象に強い刺激をから神経線維を作っているためと言われている。

 

 

回想法、作業回想法、RO、レクリエーション療法、学習療法、アートセラピー音楽療法、ダイバーショナルセラピー、身体活動など。

 

 

それらは、快、コミュニケーション、役割、褒める、失敗ない活動の5原則がなければ効果がない。

 

 

認知症治療ガイドライン2012のエビデンスレベルC1には、回想法や音楽療法、学習療法、レクリエーション療法、身体活動などが認められている。

 

 

逆に、不安やストレスは、血中コルチゾール上昇を介して、海馬細胞神経にダメージを与え、記憶を悪化させる。加齢により脳にβアミロイド沈着をきたす。AD実験用マウスの海馬に強力な副腎皮質ホルモンのデクサメサゾンを7日間注入すると、βアミロイド沈着が増加し神経細胞内にタウが蓄積する。つまり、ストレス刺激でAD病変が加速する実験が出ている。

 

 

よって、不安やストレスを取り除くコミュニケーションが大切である。

 

それを実施するためには、どのような生活背景、文化、性格特性があり、中核症状が本人にどのように働き、本人がどのように捉えたため、こんなBPSDが出現しているなど、理解していくことが大切である。

 

 

そのため、認知症の病理、脳の機能局在や構造、働き、連携などをしっかり勉強することが重要です!!