ブロン依存症について ~危険性・症状・治療方法のまとめ~
ブロン依存症について ~危険性・症状・治療方法のまとめ~
○市販薬依存の概要
エスエスブロン錠(ブロン)、パブロンゴールド(金パブ)、ウット、ナロン/ナロンエース、レスタミン(レタス)など市販薬を主乱用薬剤とする10代が急増している。
全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査 2018の年齢別主乱用薬剤の構成比によると、市販薬を主乱用薬剤とするものの割合が、2016年では0.0%、2018年では25パーセント、2018年では41.2%と、とんでもないスピードで急増している。ツイッター(Twitter)のツイッター検索で、「ブロン」、や「金パブ」と打ち込むと乱用したとの旨を伝えるつぶやきが多数見られている。
私自身も臨床場面で多数の10代(主に中学生や高校生)の市販薬依存症の患者と接する機会が増えている。ブロン依存症の例だと、苦痛から逃れるために使用し、一時的にスッキリするも、長く使用することにより、使用しないと気持ちが落ち着かない、イライラや不安、使用しないとだるくて動けないなどの症状が出現しやすい。
最終的に無気力状態で、何をするにも意欲がわかない状態になり、朝ブロンの飲まないと起き上がれないほどの状態になり、「死にたい」という気持ちが強くなる希死念慮に繋がる人もいる。また、離脱症状もあり、虚脱感、焦燥感に襲われ、断薬時の不安も大きい様子である。
中学生、高校生の市販薬の依存症になる人に共通して見えてくることは、家や学校に居場所がないということである。幼少期に親から暴力・暴言、性的虐待、食事をもらえない、留守にしていることが多い、構ってくれないなど育児放棄(ネグレクト)を経験している人も少なくない。
また、学校でいじめや友達がいないなどの状況にある人も多く、薬物を辞めるだけで解決するような問題ではなく、生活全体を見てどのような介入が本人の救いになるのかを考えていかなければいけないと感じている。
○鎮咳薬「ブロン」について(危険性)
- 塩酸メチルエフェドリン(中枢性興奮薬)という「覚せい剤」の効果を弱めたもの
- リン酸ジヒドロコデイン(中枢神経抑制薬)という「モルヒネ」に似た鎮静作用をもつもので、側坐核でドーパミンの遊離を促進する。
- マレイン酸クロムフェニラミン(抗ヒスタミン薬)という、興奮と抑制双方に働くもので、側坐核で遊離されたドーパミンの再取り込みを抑制する。
- カフェイン(中枢神経興奮薬)という、アデノシンと結合し、疲れをかんじづらくなる作用があるもの
の主に4つの成分が含まれている。②のリン酸ジヒドロコデインと⓷のマレイン酸クロムフェニラミンを併用することで、ドーパミンの遊離が促進され、遊離されたドーパミンが再取込みされないために、ドーパミン神経系が強度に亢進され、その結果精神依存が増強される相乗効果もある。
○ブロン依存症について
前述した通り、過剰服薬すると依存の危険性がある薬物だが、1錠あたりの効果は微弱で、咳止めとして、用法、用量を正しく飲む限り依存に陥ることはないだろう。
最初は10~20錠ほどで効果を感じ、「フワフワした感じ」、「元気が出る感じ」「多幸感」が得られる。耐性が付き、すぐに効果を感じられるのに必要な内服量が増え、おおよそ1か月程度で1瓶(84錠)に達するものの少なくない。多い人だと、一日2瓶ほど飲んでいる人もいる。1瓶税込み1650円と、毎日1瓶飲むと1か月49500円と、かなり高額となる。10代の特に女性にブロン依存症者は多く、ブロン依存症者の10代の女性は、パパ活や援助交際を行っている人も少なくなく、社会的な問題を含んでいる。
○ブロンの急性期症状
ブロン錠を初めて服用時に1瓶(84錠)飲んだ場合、
- 飲んで30分程度で身体が軽くなる感覚が出現し、ふわふわしてくる
- 目の中にいつも以上に光が入ってきて、景色の光彩があがる
- その後、目頭が重くなり
- 頭を動かすと目がグラグラする
- 脂汗が止まらなくなり
- 唾液の味が濃く感じるようになる
- 判断力が乏しくなり、唾液を飲み込むという判断ができなくなる
- ふらつきが強く立ち上がると足元がおぼつかない
- 気持ち悪くて動くことができない
- 下肢のしびれや感覚の鈍さを感じる
- 外的刺激に対する受容が乏しく1時間程度の記憶が曖昧になる。
- 1時間程度経過すると、気持ち悪さが落ち着いてくると
- 心地よい倦怠感と睡魔に襲われる
- しばらく多幸感が続く
- 食事時に気持ち悪さ、食欲不良あり
概ね上記のような症状が経過観察される。
○ブロンの慢性期症状
ブロンを長期に多量服薬を継続すると
- 離脱時の虚無感
- 意欲低下
- 焦燥感
- 希死念慮(自殺願望)
- 抑うつ状態
- イライラ感
- 不安感
- 集中力の低下
- 記憶力の低下
- 人間関係への興味の希薄化
- 感情の平板化(何をしても楽しく感じない)
- 食欲低下
- 社会的能力の低下(仕事や学校活動の意欲低下)
- セルフケアの関心の低下
- 無気力状態
などの症状が経過観察される。
離脱症状は服用期間や、内服量が多いと強く観察される。ベッドから起きる上がることがしんどくなるほどけだるさ、意欲のなさと、何もしていないことにしんどさを感じる焦燥感もあり、離脱症状の辛さはかなり強いと推測される。
○ブロン依存症になりやすい背景と社会的問題
臨床場面での感覚ではあるが、ブロン依存症に限らず、市販薬の依存症になっているのは10代が圧倒的多い。ブロン等の市販薬の影響か、元々素因がある人が市販薬への依存に陥りやすいか定かではないが、リストカット(OD)をしている人、死にたい(希死念慮)という気持ちが強い人がほとんどである。
また、学校でいじめをうけている人、親から虐待を受けている人、親から性的虐待を受けたことがある人、親に関心を向けられず愛情が足りない人(愛着障害)、ジェンダー(性の問題)に悩んでいる人も多く、依存症の問題ではなく、家庭や社会に問題を抱えていることが要因となり、結果として市販薬依存に至っている。なので、市販薬の販売を禁止すればよいなど安直な解決方法で解決する問題ではなく、育児や学校、社会のありかたに問題があるのではないかと思う。
○治療方法について
ブロン依存症など市販薬依存症の治療方法に関して、前述した通り、依存物質を止めさせるだけでは解決に至らず、その人のもつ、学校、家庭、社会で起こっている問題や悩み、辛さを知り理解していくことがまず重要となる。
1980年にサイモン・フレーザー大学のブルース・アレクサンダー博士らが行った、「ネズミの楽園」と呼ばれる有名な実験がある。この実験では、一匹ずつ金網でできた織の中過ごす群(「植民地ネズミ」)と、広々とした場所にオスとメスを数10匹一緒に入り、遊び道具や十分なエサ、居心地のウッドチップの床がひかれた中で過ごす群(「楽園ネズミ」)に分ける。この両方のネズミに対し、普通の水とモルヒネ入りの水を用意して与え、57日間観察したところ、結果は「植民地ネズミ」の多くがモルヒネ中毒になり、「楽園ネズミ」の多くはモルヒネ水を飲まずに、他のネズミと遊んだり交尾をしたりして過ごしていた。
この実験結果から学ぶに、「深い孤立」が依存症に至る要因として強い影響があるのではないかと考えられる。ネズミと人間では背景が違い、もっと深い要因があると思われるが、私が臨床で経験した印象としては、人と一緒にいても、気がやすめなかったり、本音で話せなかったり、人といても不安だったり、誰かといてもどこか孤立感がある人、「深い孤立」の状態にある人が多い。この状態から脱却すること自体が難しい問題ではあるが、家庭、学校、職場など社会などの場面で何かしら「つながり」を感じられるようになる、拒絶ではなく理解してもらえるという感覚を得ることが治療において重要な要素になると考えている。