公認心理師試験の解答と解説 公認心理師 臨床心理士 精神科作業療法士など 精神科で働く人に役立つ情報を発信します

公認心理師と作業療法士の2足のわらじで働いています。私が体験した治療が上手く行った事例をプライバシーが守れる範囲で簡単に紹介していくことや、治療に関するトピックス、治療者が使いやすいツールや検査法、評価法など紹介していきたいと考えています。

アルコール依存症の症状と治療法(作業療法介入と視点)

アルコール依存症の症候

 

  1. 飲酒行動の変化
  • 飲酒量、飲酒時刻、飲酒に対する抑制の減弱
  • 飲酒行動の多様性の減弱
  • 負の強化に対する飲酒の反応性の変化
  • 例)職場でコッソリ酒を飲む。

 

 

 

 

2.主観的状態の変化

・ 飲酒抑制の障害ないし抑制

  • 渇望 
  • 飲酒中心性※渇望とはのどが渇いたとき水を欲するように、心から望むこと。
  • ※飲酒抑制の障害ないし抑制とは、酒量を減らしたり、断酒しようとしても決心できない。

 

 

 

 

3.精神生物学的状態の変化

  • アルコール離脱症候群
  1. 早期症候群:アルコール離脱後7時間ころより始まり、20時間ころにピークをもつもので、いらいら感、不安、抑うつ気分などの不快感情や、発汗、体温変化などの自律神経症状、手指、眼瞼・体幹の振戦、一過性の幻覚(幻視、幻聴が多い)、けいれん発作などが見られる。軽い見当識障害が出現することもある。
  2. 後期症候群:離脱後72~96時間に多くみられるもので、粗大な振戦、精神運動亢進、幻覚、意識変容、自律神経機能亢進を主徴とする振戦せん妄である。前駆症状として不穏、過敏、不眠、食欲低下、振戦などが出現し、次いで振戦、せん妄に移行することが多い。意識混濁はそれほど強くなく、表面的には対応可能なことが多い。注意散漫で落ち着きがなく見当識障害を伴う。
  3.    幻覚は幻視が多く、小動物や虫が出現するが多い。それらが体の上に這い上がってくる感覚(幻触)を伴うことがある。幻覚は暗示によって出現したり、増強したりする。眼瞼上から眼球を圧迫して暗示を与えると幻視が出現することがあり、リープマン現象と呼ばれる。

 

 

 

 

〇回復期の作業療法

 離脱症状も一応おさまった回復初期には、患者の身体機能の評価や作業に対する精神的耐性、身体的耐性、作業遂行能力、対人特性などのスクリリーニングが必要になる。他者との協力が必要になるものや工程の複雑な課題作業を少しずつ取り入れ、集団の他のメンバーとの交流の機会を多くする。そのなかでスクリーニングをおこないながら、下記を行う

  • 基礎体力の回復・改善
  • 作業に対する精神的耐性、身体的耐性の向上
  • 集団凝集性を高め、他者と協調的に行動する体験
  • 利他行為による自己尊重の向上
  • 自己能力の現実認識
  • 酒害や薬物に対する自覚や断酒や断薬に対する教育

 

 

 

 

 

 

 

 

回復期初期には、依存症の2面的な人格特性が顕著に現れる。依存したい欲求と見捨てられる不安に対する防衛とみられる過度な自立的態度や誇大的態度である。

 

 

 

他者に認められ必要とされることを求めて、治療者に対する従順な態度、作業に対する過度ながんばり、反対にアルコールや薬物への依存の否認を含む妙な強がりを見せたりする。普通の努力でよいということを示し、過剰な言動に影響されない対応が必要である。

 

 

 

 

また、身体機能や作業能力を超えた行動や欲求も見られるので、基本的な能力の評価が必要である。そして、スポーツなどは、適応的なアクティングアウトとして、また、他者との協調性の体験として有用であるが、身体機能の低下から疲労しやすいため、過剰な運動にならないよう注意が必要である。

 

 

 

 

 

 

 

 

回復後期には、退院後の生活に焦点をあてた指導が中心である。家族の受け入れや復職、再就職といった、現実的な課題があり、そのことに対する逃避的な気持ちから依存性が高まったりもする。

 

 

 

 

 

 

地域社会への復帰に対する意識をしっかりもたせ、家族や地域社会内における人とのかかわりの回復を目指し、自分のありのままの能力で他者とつい合い、生活できるようにする。退院後のわずかな気の緩みでアルコールや薬物に手を出し、入退院を繰り返すということが多い。

 

 

 

 

 

退院に向け、自助グループへの参加を促すなど退院後の生活に対する助言指導は欠かせない。退院できる程度まで回復した努力を評価し励ますことが、過剰といえる自己愛を仕事や生活といった社会に承認される行動へと転化する。