公認心理師試験の解答と解説 公認心理師 臨床心理士 精神科作業療法士など 精神科で働く人に役立つ情報を発信します

公認心理師と作業療法士の2足のわらじで働いています。私が体験した治療が上手く行った事例をプライバシーが守れる範囲で簡単に紹介していくことや、治療に関するトピックス、治療者が使いやすいツールや検査法、評価法など紹介していきたいと考えています。

統合失調症の治療事例を紹介します。 30代男性の事例 

統合失調症の治療事例を紹介します。

 

倫理的配慮のため、個人情報がわからないように内容は少し変更しています。

 

 

これを見て実際に統合失調症に悩んでいる方の参考になれば幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

〇ケースの基本的情報

30歳代前半・男性 診断名:統合失調症

 

大学2年時に周囲の人が気になりだし、帰省後「自分は狙われている」と訴える。統合失調症と診断され通院服薬するが3か月で中断。以降、日常生活全てにおいて母親の誘導が必要となる。自宅にて5年間の昏迷状態で、生理的欲求を伝えることができない状態。自発的行動無く、意思表示困難、セルフネグレクト状態である。母親の入院がきっかけとなり入院。

 

 

 

 

 

 

 

 

〇治療経過

服薬治療開始、エビリファイ内用液30ml(1日1回、毎食後)

 

入院後の薬物療法開始から2週間で声を発することが可能となる。

 

 

 

 

 

 

面談では、現在困っていることや楽しみはない。入院前の記憶や家族の所在について曖昧だが気にする様子はなく、今後退院したいという気持ちも特にないと話しており、感情表出が乏しい。

 

 

 

 

 

学生の頃など過去の記憶が曖昧で、なぜ病院にいるか経緯も分からないと答えている。自身の年齢、日付や時間も分からず、面談の約束をしても待ち合わせ不可能で、時計を見るなど時間を気にする様子も無く、社会生活技能全般が乏しい状態。

 

 

 

 

作業能力も低下しており、ハサミで和紙を切るなど一工程の簡単な作業しか行えず、複雑もしくは、2工程以上ある作業は困難である。日常生活では、睡眠リズムは安定しているが、食事の時以外は自室で臥床して過ごしている。

 

 

 

NPI興味チェックリストでは全項目の70%に興味はなく、分類としては主に球技やテーブルゲームに関する項目に「普通」と回答しており、普通にチェックしたものに関しては昔に体験したものがある項目であった。しかし、テーブルゲームは手順やルールは覚えていないと答えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇介入の基本方針

 自己や他者への興味関心が欠如し、活動意欲や感情表出が乏しい。それにより日中は臥床し自発的な活動もなく無為に過ごし、日常生活で時間を意識することもなくなり、時間管理ができない。そのため、対人交流を伴う作業活動をし、対人関係の構築や興味関心、楽しみ体験などに働きかけ、活動意欲や自発性、社会生活技能の獲得(時間管理等)の構築を目指してアプローチしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇経過

 意思表示や感情表出を促し、脳全般機能を賦活させるため、援助を受ければなんとか達成できる難易度の作業活動を用いた作業療法実施。

 

和紙工作品、テーブルゲームを少しずつ難易度をあげながら実施。

 

 

 

活動中に「あー間違った」と苦笑いするなど、失敗に対する悔しさの感情表出が見られるようになる。

 

 

 

 

 

面談時に「自立したい」「仕事はしたい」との意思表示は見られたので、「自立した生活」を目標に、「自身に足りない部分」、「何に取り組むか」を決め、その中で小目標を立て、振り返りシートに活動内容と自己評価を書くようにした。目標には、「家事活動を行う」「対人交流が上手くなる」「自発性を高める」の3つが上がり、新たに「調理クラブ」の活動に参加し、外泊時に家事を行うことになった。

 「調理クラブ」では話し合いで何を作るかの話し合いと実習を行っており、話し合いの場で他者の意見にコメントする、自身の意見を述べることを目標に行った。開始時は意見を言えずにいたので、個別の振り返りを実施しモデリングし、前回参加時の反省点と目標を毎回ノートに記入するようにした。その後、他者の意見にコメントする場面や、促されれば自身の意見を述べることができるようになった。

 外泊時、以前までは何もせずテレビを見て過ごすだけと述べていたが、食器洗い、調理クラブで使ったものを家で作るなど、課題を出し外泊後に振り返りを行った。出された課題は達成できたが、それ以外はテレビを見て過ごすなど外泊時の自発的な行動は見られないが、家族は外泊時の活動に協力的になり、家族が掃除を手伝うよう促すなどの援助が見られ始め、家族から退院にも前向きになったと話されるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇考察

 ケースは5年間の昏迷状態を呈し、生理的欲求も伝えることがなかったことから自己への関心がなく、発話もしなかったことから対人接触の機会がない生活を送っていた。

 

 

 

自発的な交流をせず、視線を合わせようとしないことから、人との関わりを避けたい気持ちがあったことが考えられる。これに対して、段階を付けた作業活動での成功体験とフィードバック、テーブルゲームを通した会話など、作業を介した適度な心理的距離を保つ関わったことで信頼関係の構築に至ったと考える。信頼関係ができたことで、他者への興味が賦活され、活動後のフィードバックや他者からの賞賛への喜びを感じるようになったのではないかと考えられる。そのため、作業活動を行う動機付けができ、活動意欲や感情表出が見られるようになったと考える。そして、経験したことに対しての学習は見られるので段階付けすることで、徐々に作業能力が向上したと考える。

 

 

 

 

時間管理に関して入院前は生活維持に関することを全て母親の援助で行っていたという経緯から、時間の意識、記憶の想起を必要とする生活を送ってこなかったと考える。そこで、セラピストとの待ち合わせが動機付けとなり、自身でカレンダーに予定を書き込むことや、予定通りに行動出来たら印を付けることが行動強化となり、予定通りに行動出来るようになったと考える。  

 

 

 

 

 

 

介入の後半、面談時に「自立したい」「仕事はしたい」との意思表示は見られた。ケースは大学卒業時に発症に至った経緯から元々持っていた欲求であり、テーブルゲームや作業活動から対人交流や活動に楽しみを感じ、感情表出や欲求が賦活されたことで表出されるようになったのではないかと考える。そこで、指示され段階付けを受けるという学習方法が強化されていったため、スムーズに他者を気づかって援助することや「調理クラブ」で意見を述べること、外泊時での家事活動が習得されていったのではないかと考える。