公認心理師試験の解答と解説 公認心理師 臨床心理士 精神科作業療法士など 精神科で働く人に役立つ情報を発信します

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公認心理師試験 過去問 2019 問10 試験問題 解答と解説 ~国家試験合格に向けての勉強と試験対策~

 

 

公認心理師試験 2019

問10 

 

社会的判断に用いる方略を4種類に分類し、用いられる方略によって感情が及ぼす影響が異なると考える、感情に関するモデル・説として、正しいものを1つ選べ。

① 感情入力説

② 認知容量説

③ 感情混入モデル

④ 感情情報機能説

⑤ 感情ネットワークモデル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解答と解説

 

正答は③です

 

 

①感情入力説 ×

 

ライミングとは、事前にある刺激を知覚することにより、ある分野の知識や概念などが活性化される現象で、プライミングは日本語で先行刺激呈示効果といいます。

 

特定の知識などを活性化させるだけでなく、活性化された知識と同じカテゴリーの知識も同時に活性化されると考えられています。

 

間接プライミングとは、異なる2つの刺激を同時に提示した場合に、対象の処理が促進される効果のことを言います。

 

例として、プライマー(先行刺激)として「トラ」が提示された際に、ターゲット(後続刺激)として「ライオン」が提示された場合には、「ヒマワリ」が提示された場合と比較して、ターゲットの語彙判断に要する時間が有意に速くなる、などによってプライミング効果が評価されています。

 

記憶の分類は

宣言的記憶意味記憶エピソード記憶

宣言的記憶:技の記憶・プライミング・古典的条件づけ

 

と分けられ、プライミングは無意識の潜在記憶が情報処理過程や記憶の定着などに影響することが明らかになったことで注目されています。

 

 

間接プライミングは、主にエピソード記憶研究ではなく、潜在記憶研究で用いられているので、誤答となります。

 

 

 

 

 

②直接プライミングは、先行情報と後続情報の間に意味的関連性が強い場合に生じる。 ×

直接プライミングとは、プライマー(先行刺激)とターゲット(後続刺激)とで同じまたは似た刺激が繰り返されることで起こるプライミングのことを指し、反復プライミングとも呼ばれています。

 

有名な研究方法でいうと、例として、プライマー(先行刺激)を「ライオン」と提示し、その後、「ラ□オ□」のような単語完成課題を行わせると、プライマー(先行刺激)を提示されている群は、提示されていない群と比較して有意に単語の正答率が向上したり、反応時間が速くなったりします。

この際、プライマー(先行刺激)を提示されている群は、単語を意識的には想起しておらず、潜在的な想起過程において起こっているおり、非宣言的記憶の過程に分類されます。

 

ライミングの効果は、言葉だけではなく、絵など象徴となるものや、連想できるものでも発生します。

 

 

「直接プライミングは、先行情報と後続情報の間に意味的関連性が強い場合に生じる」との問いですが、直接プライミングは、宣言的記憶である意味記憶(意味的関連性)に限らず、非宣言的記憶発生するため誤答となります。

 

 

 

 

 

③感情混入モデル 〇 

 

社会的判断における感情混入モデルに関して、感情混入モデルが提訴される以前の主流であった感情情報機能説では、ある気分を認知し、それを情報として採用すれば認知者の情報処理が規定されるという枠組みという考え方でした。

 

これに対し,感情混入モデルを提訴したフォーガス(1995)は、感情を知覚し情報処理を行う主体の動機や知識といった情報処理者に関する要因を導入し、気分一致効果が生じる条件を4つ情報処理の型として分類しました。

 

4つの情報処理の型は

Ⅰ.「直接アクセス型処理」

Ⅱ.「動機充足型処理」

Ⅲ.「ヒューリスティックス型処理」

Ⅳ.「実質型処理」に分類されました。

 

Ⅰ.直接アクセス型処理

 情報処理者が判断対象をよく知り既に固定した評価を持っており、かつ個人的関心が低い対象についての情報処理を行う場合で、過去の評価的知識にアクセスするため気分が情報処理に影響を及ぼさないとされる。

 

Ⅱ.動機充足型処理

情報処理者が判断対象についてあまり知識がないが、特定の目的意識や動機が存在する場合で、特定の動機に合致するように情報処理が行われるため、気分が情報処理に影響を及ぼすことはないとされている。

 

Ⅲ.ヒューリスティックス型処理

 情報処理者が判断対象について知識を持っており個人的関係もあるが、判断対象が特に新奇なものではなく、特別に情報処理を行おうとする動機がない場合で、特に情報処理を行う認知容量が不足している場合に生じると考えられている。

つまり、判断対象が単純で、じっくり考える余裕がない場合に,簡便で参照しやすい情報だけを用いることになり、気分が情報として機能する可能性が生じる。このような条件でポジティブな気分が情報として参照されると、気分一致効果が生じるとされている。

 

Ⅳ.実質型処理

 情報処理者が判断対象について知識もあり個人的関係もあるが、対象が新奇で複雑なものであるため、情報処理を行おうとする動機がある場合である。これに加えて情報処理を行う認知的容量が十分に確保され、この時感情状態がネガティブであれば、情報を精緻化し詳細に検索するという気分一致効果が生じるとされている。

 

 

社会的判断に用いる方略を4種類に分類し、用いられる方略によって感情が及ぼす影響が異なると考える、感情に関するモデル・説として、正しいので正答となります。

 

 

 

 

 

④感情情報機能説 ×

 

感情情報機能説とは、Schwartz(シュワルツ,1990)によって提唱された、気分一致効果から、気分のポジティビティによって情報処理方略が影響を受けるというプロセスの仮定となります。

 

気分一致効果とは、気分は,記憶・判断・行動に関する影響があり、実験的によい気分に導入された時、人は援助行動を行いやすい。これは、援助という「よい行動」に一致する気分であったために援助が促進される効果が生じたもので、気分一致効果のひとつである。

気分一致効果は、気分のほかに有力な情報源があるときには生じないことが実験的に明らかにされ、気分一致効果が生じる条件は、感情が情報として機能することだとされています。

 

感情情報機能説はポジティブな気分は気分の認知者の状況が安全で良好であることを示しているため、スキーマステレオタイプなど簡易な情報処理方略が行われるとされています。

 

逆にネガティブな気分は、気分の認知者の状況が安全でなく、状況を好転させるために何らかの対策が必要なことを知らせると考えられています。

 

前述にプロセスの仮定と述べた理由として、後に、条件が整っても気分一致効果が生じないケースも報告され、理論の不備が指摘されることが理由となります。

 

感情情報機能説に対し、感情混入モデルを提唱したフォーガス(Forgas,1995)は、感情を知覚し情報処理を行う主体の動機や知識といった情報処理者に関する要因を導入し、気分一致効果が生じる条件を詳細に分析しました。

 

 

感情情報機能説は感情に関するモデル・説に分類されますが、社会的判断に用いる方略を4種類に分類してはいないので誤答となります。

 

 

 

 

 

⑤感情ネットワークモデル ×

 

感情ネットワークモデルは、バウアー(Bower1981 ,1991) が呈示した感情ネットワークモデルで説明されることが多く、記憶表象内に感情のノード(ネットワーク) を仮定し、感情的な出来事と感情ノードが連結しているネットワークを想定するものとなります。

 

ある感情状態になった際に、類似した感情ノードが活性化し、それに連なる感情と一致した出来事や経験が想起されやすくなります。これは、感情プライミングのプロセスが働き、ポジティブ気分時には判断対象についてのポジティブな思考や反応が活性化され、ネガティブ気分時では対象についてのネガティブな思考や反応が活性化されやすいので、判断が感情価に引きすられバイアスを受けた評価がなされやすいという判断の変化を示します。

 

これはポジティブだけではなくネガティブにも同様に働き、仕事上のストレスから抑うつ状態に陥っている人は、ネガティブな出来事が起き疋現状から、比較的最近の過去の失敗や挫折などのネガティブな出来事の想起にアクセスしやすくなり、抑うつ状態を促進し やすくなっているのではないかと予測されます。

 

 

感情ネットワークモデルも感情に関するモデル・説に分類されますが、社会的判断に用いる方略を4種類に分類してはいないので誤答となります。